阿保にみえる

 

その一、"一か八かの賭け"

 炎天下だ。太陽がぎらついていた。午後三時を回っても暑さはちっとも和らいじゃいない。俺は最終レースを前にもうじり貧になっていた。裏目裏目で持ち金はそこを尽いた。残ったのはコイン一枚。どこのポケットを探ってもそれ以上にないもんはない。こうなったら二つに一つだ。最後のありったけを大穴も大穴にぶちこむか。それとも冷えたビールでも一杯ひっかけて帰っておねんねするか。どうせおけらだ、今日は諦めちまおうか。いやいや巡り巡ってここから運が向いてくるってこともあるかもしれない。どうするか。そんなことを考えていると、向こうからぶらぶらと近づいてくるのが見えた。金貸しのボンタだ。嫌な野郎に会っちまった。会いたくもねえやつNo.1だ。ボンタは目の前までくるとにやりと笑った。突き出た腹をぼりぼり掻きながら。

「おめえ負けてんな。金貸してやろうか」見透かしたこといってやがる。こいつにぼったくられたのはついこの間の話だ。まあ、わかってて借りたこっちも悪いが。とにかくボンタはそれが商売だからしょうがない。レース場をうろついて素寒貧を捕まえては金を貸す。えらい暴利ってのはみんなわかってる。けれど欲をかいた連中は、手を出して後でえらい目にあう。俺はなにもいわなかった。

「へっへ、おめえのしけた面みてな。俺もたまには酔狂だ。おめえの持ち金とこいつをかけて一発勝負といこうじゃねえか」ボンタはそういうと耳に挟んだ折り畳まれた紙幣を広げて見せた、びっくりする高額紙幣だ。

「のった。持ってんのはこれだけだぜ」そういって俺はコインを見せてやった。途端に渋い顔になったボンタの顔といったら。しったこっちゃない、そっちから持ち掛けた話だぜ。「ち、ほんとにしけてやがる」と呟くボンタに、構わず俺は声をかけた。

「コインでいこうぜ。表か、裏だ。投げるのは俺、答えんのはあんただ。どうだい」

ボンタはしょうがねえなと受けた。俺は高々とコインを放り投げた。受け止めようとした、その、瞬間にまともに太陽を見ちまった。ありゃ。取り損なった。コインは地面をころころ転がり、転がって…。どぶの格子の隙間から、下に落ちても転がって…。蓋のしてある奥のほうでからんとコインの止まる音。沈黙。暫くして、ボンタの笑い。「へっへ、投げたのはおめえだからな。おめえのツケにしとくぜ」そういうと、奴はいっちまった。からん、か。どぶはカラカラ。俺もカラカラ。この結末はなんだい。

 

その二、”ずるはしたもん勝ち"

 凍てつく夜がやってくる。するっと忍び寄ってくる寒気はいつのまにか全身をがっちりと包み込み、身動きもさせてくれないのだ。顔に、首に、足元に絡みついてくる寒さが、わずかな隙間から衣服の中にまで侵入してくるのだ。耐えるということを学ばなければならない。私は足踏みをしながら列に並んでいた。薪も灯油も高騰が止まらない。価格は上がっていくばかりである。しかし生きていくためには仕方のないことだ。だから私は今日も列に並ぶのだ。こんな生活がいつまで続くのか。行列は時間をかけてのろのろとしか進まない。並んでいる者の息が、薄暗い街燈の中で白く濁ってみえる。少なくとも寒さは誰にでも平等にやってくるが、身に着けている外套や帽子はまちまちである。高級な毛皮もいるし、薄っぺらな麻のシャツ姿もいた。とにかく灯油を買って帰らなければ、誰もこの晩でさえしのげないのだ。ふと横をみるとその行列の横をすり抜けていくものがあった。毛皮の帽子を耳がすっぽりと被るまで深くかぶったその姿は、顔が見えにくかったが、私の横を過ぎゆく時にちらりと視線をこちらに向けたので、私にはその顔が見えた。株屋のガンゾである。分厚いコートに手を突っ込み、前へ歩いていくその後ろ姿に私は声をかけた。

「ガンゾさん、ガンゾさん」しかし彼はまったく振り返らなかった。列の先頭付近まで歩いていったのを私は後ろから見ていた。ガンゾは、統制のために立っていた役人に声をかけていた。なんとなく人を憚るような姿であった。たぶん、注意してみていたのは私だけだったに違いない。ポケットからなにかを、そう、なにかを役人に渡したのを私は見逃さなかった。役人はそれを自分の隠しに突っ込んだ。そして先頭にいた老婆のところにいき、一言声をかけるとその前にガンゾを並ばせたのである。これは明らかに不正である。これは明らかに欺瞞である。私は我知らず大きな声を出していた。

「おい!割り込みは卑怯だぞ!」誰もがこちらを振り返った。私は前方を指さした。

「割り込みは卑怯だぞ!」しかし指さしたほうを見向きはせず、群衆は私を凝視したままだった。幾多の目が私を見ていた。私はじれったい思いでまた叫んだ。「ちゃんと並んでいないのに割り込む権利はない!」

私の視線の先でガンゾがまた役人に話しかけているのがみえた。役人が誰かに合図らしく首を振ったのがみえた。また叫ぼうと息を吸った間際に、両肘をがっちりと捉えられて私は列から連れ出された。いつのまにか警官が現れて私を両側から挟み込んでいたのだった。

「私ではない、不正をしたのは…」しかし私はそのまま引きずられ、通りの道端に停められていた警察の護送トラックに放り込まれた。そして、乱暴に扉が閉められ、大きな音でかんぬきが閉められた。

 

その三、"つまりはぐだぐだだ"

 殿中である。家老のホニャランがいった。「殿、殿。城下には近頃活気が見えませぬ。なにかこれぞという沙汰をせねば藩の再興が見えませぬぞ」殿は思案気にいった。「余もそんなことは聞いている。なにか策はないか」家老のホニャランは機智に富む人物であった。「お触れをお出しなさるのです。経済が活発に動くように、遊行に出る者には褒美を出すと。なれば消費がすすみ、まわりまわって藩の財政も潤いますぞ」殿は身を乗り出した。「それはよい。とにかく経済がいちばんじゃ。早速国中にお触れを出すがよい。名付けて、"イケイケ政策のお触れ"じゃ!」しかし巷にはいつからか邪鬼が現れた。邪鬼は人に取り付き、人間を邪鬼に変えてしまうのだ。その邪鬼の数は増える一方であった。高名な知恵者で世間に知られているお抱え学者のハリヤラは進言した。「殿。このままでは危険です。城下のものがあらかた邪鬼になってしまえば、そしてこのまま邪鬼が増え続ければ確実に藩は滅びまする」殿は青ざめていった。「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。どうすればよい」ハリヤラは答えた。「今は息をひそめてやりすごすしかありませぬ。邪鬼が諦めて異界に帰るまで、国中の全ての者に外出禁止のお触れを出さねばなりません。これは非常事態でありまする」そこで殿は大きな声で部屋中の家老共に伝えた。「よし!イケイケはやめじゃ!お触れを出すのじゃ。名付けて"ヤメヤメ政策じゃ!」それでも家老たちは口々に意見をいいはじめ、城内は喧騒に包まれた。一方、城下の町中も混乱を極めた。町人A「いけっつったり、やめろっつたりいってえどっちなんだい」町人B「げに恐ろしや。邪鬼に取り付かれては命もないぞ」旅籠屋の主人「みんなどこにも出かけねえんじゃうちはおまんまの食い上げだ」小料理屋の女将「どこのどいつだい、うちの客が邪鬼ばっかりなんていったのは」町医者「邪鬼では医術も歯がたたんのだよ」遊び人「けっ、邪鬼が怖くて博打がうてるかい」暴走族「おれは自由だからよ。誰にも止められねんだよ」ミュージシャン「俺はロックだからよ。誰にも止められねえんだよ」政治家「いやあ夜が仕事みたいなもんだからさ。やっぱり飲みがないとね」プロヂューサー「とにかく芸能人が騒がなきゃ誰もみないよ」某知事「こないでください」サラリーマン「好き好んでいかないよ。仕事なんだもの」某国民「もうあまり意味はないよね」

 誰の言い分にも共感しない。かわいそうなのは子供たちだ。間違いなく

 

LIVE at

 

荒川沖ジミヘン

 

2024/5/25 sat 

 "ジミヘンLIVE" 

 

act:

はちろうはぢめ

 

 start:20:00

投げ銭

 

 

荒川沖ジミヘン

 

2024/6/2 sun

"ユウジキクチ

HOPEFUL TOUR" 

 

act:

ユウジキクチ

ブレーメン

 

open:19:30start:20:00

charge:1オーダー+投げ銭  

 

水戸90EAST

 

2024/6/8 sat 

 "サウンドホールから!

コンニチワ!Vol,23" 

 

act:

中村

武蔵野カルテット

高橋賢一

for the one

劇画タイフーン

四畳半プリン

SCREW-THREAT

 

open:17:00start:17:30 

 Charge:¥2,500(1drink+満月ポン)込

 

荻窪クラブドクター

 

2024/6/13 thu

"club doctor 24th ANNIVERSARY" 

 

act:

SHOTGUN BLADE+10,000ケルビン

ザズエイラーズ

AZU

 

open:19:00start:19:30

charge:¥2,000(+1d)