砂漠の友達

 

 こんなお話ー

 あるところにサソリが一匹すんでおりました。サソリはずっとずっとおなじところにいたので、いつかは違う世界を見てみたいといつも思っておりました。ある日、ついにサソリは旅にでようと決心しました。しかしそのためには大きな河を越えなければならなかったのです。サソリは泳げなかったので、河を目の前に考え込んでしまいました。すると、川面から馴染みのカエルがひょいと顔を出しました。ふとひらめき、これぞとばかりにサソリは声をかけました。

「やあカエルくん。君、ぼくを背中に乗せて向こう岸までわたってくれないかな」

カエルは首を振りながら答えました。

「いやだよ。だって君は誰かれ構わず刺すじゃないか」

慌ててサソリはいいました。

「刺すわけがないよ。そしたらぼくも君と溺れてしまうもの。なによりぼくは君の友達じゃないか」

カエルは納得して「それじゃ乗りなよ」といってくれました。

 大きな河を、もう中ほどまでこようとしていた時でした。なぜかサソリは落ち着かない気持ちになり、むずむずと尾を動かしはじめました。そして自分ではそんなつもりはまったくなかったのに、やっぱりカエルを刺してしまったのです。カエルは叫びました。

「君は刺さないっていったじゃないか!友達だったのに!」

カエルと一緒に川の底に沈みながら、サソリはつぶやきました。

「どうしようもないだろ。だってぼくはサソリなんだから…」

 

 その後日譚ー

 俺はここにいる。ここはどこかって。砂漠だ。あまりに長いこといるんで今じゃ砂漠に溶けちまったような気がする。俺は砂漠だ。砂漠は俺だ。いや、本当のことをいえば俺はただのちっぽけな蠍にすぎない。動いているものを見れば刺さずにはいられない性悪の蠍だ。一度、ここから出ていこうとしたが頓挫しちまった。死にはぐったが、どうにか帰ってきた。砂漠に。それ以来、またずっとここにいる。うんざりもするが他に行き場もない。俺の足では砂漠は越せない。どうしようもない。熱い砂の下に潜って見知らぬ都会の夢を見たり、思い出に耽ったりしながらうつらうつらと時を過ごす。友と呼べるやつもいたにはいたが、死んじまった。あいつはいいやつだった。俺を信じ切っていた。裏切ったのは俺だ。とくに理由はない。言い訳をする気もないが俺はやつを刺したくなってしまった。だから刺した。お人好しのあいつは死に、性悪の俺は生き残った。刺されるまで俺を信じていたあいつは、最後に何を考えたろう。とにかく俺にはそういう生き方しかできない。俺は誰かを待っている。俺は誰かを待たずにはいられない。俺の心の中の、空虚さってやつを分かってくれる誰かを。

 

 旅人がやってきた。俺はねぐらにいたが、気配を感じて地上に這いずりあがった。人間というやつはここじゃあまり見かけない。ぼうぼうの髭面の痩せた男だった。疲れた顔をして石に腰を下ろした、というよりはへたり込むといった態だ。辺りを見回して深い溜息をついていた。ここには岩と、石と、砂しかない。右も左も砂漠は砂漠だ、景色は変りはしない。この男がなぜ砂漠になど迷い込んできたのか皆目わかりはしない。わかりはしないが、俺にとっては生き物としての久しぶりの同胞だ。俺は叫んだ。「俺はここにいるぜ!」

だが旅人の耳には届かなかった。俺は会話を諦めた。しかしこれは、ここを抜け出せるチャンスだ。見逃す手はなかった。俺は人間の背中を這い登り、背負われた小汚い背嚢の中に潜り込んだ。心地よい闇の中で俺は待った。時間はいくらでもある。

 暫くして動き出す気配が感じられた。これで新天地へいける、そう思った。そう思いながら俺はいつしか眠りに落ちた。どのくらいの時間が経ったのか俺にはわからなかったが、急に眩しい光が差し込んできて俺は目を覚ました。人間がなにを取り出そうとしたのか俺にはわからない。知っているのは、上から覗き込んだ男が俺に気づいたときの、恐怖の目だ。その目は驚きと慄きと、恐れだった。男は荷物ごと俺を放り出し飛び退った。地面におち、嚢から這い出した俺は思わず声をかけた。「落ち着けよ!」

その瞬間、人間は大きなどた靴で俺を踏みつぶそうとした。間一髪で免れたが、なおも振り上げられた靴の底が見えた。それは無慈悲に冷酷に俺を殺そうとしていた。俺になにができたろう。俺にどうしろというのか。人間は俺を殺そうとしていた。俺は跳んだ。そしてやつの首筋に尾を突き刺した。

 旅人はよろめいて、そして死んだ。刺さずにはいれられない俺の性が悪ならば、有無をいわせず踏みつぶそうとした人間の業はどうなのか。俺には同じ性質のもののように思える。確かに俺は醜い。毒を持っている。そして刺す。しかしそれは俺のせいか。蠍に生まれついたのがすでに悪というならば、身勝手に他の生き物を益と害とにわけて抹殺する人間はどうなのか。宿命とか、運命とか軽くいいやがる。とかく人間ってのは一番自分が偉いと思っていやがる。俺が旅人を刺したのとは別の話だといわれればそれまでだが、俺だっていつかは優しくなれるかもしれない。ふと、お人好しのあいつの顔を思い出した。謝りたいがあいつは死んじまった。だから俺は待っている。また誰かが来るのを待っている。砂漠で。友達を。

 

 得られる教訓ー

 よくよく考えてみたが、やっぱりよくわからない。ただ、哀しい話と思っただけ。

 

LIVE at

 

荒川沖ジミヘン

 

2024/5/25 sat 

 "ジミヘンLIVE" 

 

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はちろうはぢめ

 

 start:20:00

投げ銭

 

 

荒川沖ジミヘン

 

2024/6/2 sun

"ユウジキクチ

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ユウジキクチ

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水戸90EAST

 

2024/6/8 sat 

 "サウンドホールから!

コンニチワ!Vol,23" 

 

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中村

武蔵野カルテット

高橋賢一

for the one

劇画タイフーン

四畳半プリン

SCREW-THREAT

 

open:17:00start:17:30 

 Charge:¥2,500(1drink+満月ポン)込

 

荻窪クラブドクター

 

2024/6/13 thu

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SHOTGUN BLADE+10,000ケルビン

ザズエイラーズ

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