二島の憂鬱

 

 巨大なショッピングモールの中で二島は舌打ちをした。目標の社長夫人はいつの間にか店から出ていったらしい。その店は洒落たロゴでカフェレストランとうたっていた。店頭のメニューで躊躇したのが間違いだった、中まで追うべきだったと二島は後悔した。斜向かいの旅行代理店からレストランの入り口を窺ううちに、格好づけに手に取ったピラミッド見学ツアーのパンフレットに夢中になってしまったのだった。依頼人に出さねばならない報告期日が迫っている。人生に一度はピラミッドを見てみたいなどと、見失ったことの言い訳にはなるまい。二島は諦めて駐車場に引き返したが、車を停めた階数を勘違いしていたようだ。歩き回った末、階段を上りやっと自分の車を見つけた。とにもかくにも、車内に腰を下ろして息をついた。巨大な施設は蟻塚を連想させた。しかし、この巣の中の蟻は、おおかた消費するために歩き回っているのだった。二島は煙草を振り出し火を着けた。窓を開け、煙を吐き出した。メーターボックスのアナログ時計の針は午後二時を指していた。事務所にあった食材、といっても食パンだけだが、それを思い出した。カフェレストランのショーウィンドウに飾ってあったブレッドというものとは随分差があった。二島はエンジンを始動し、ぐるぐると迷宮の様な駐車場を下へ降りていった。

 

 失踪した娘は、とある街の盛り場にいた。大都市と郊外の、その真中に浮いているような中途半端な街だった。確実に全盛期の時代を過ぎてしまった街の、その裏通りにしがみつくように雑多なテナントが立ち並んでいた。夜になって活気がでる前の昼間の繁華街は寝ぼけたようなぼんやりとした表情をしていた。夕方になって、店に出てきた彼女に二島は路上で声をかけた。娘の睫毛は昆虫の触覚を思わせた。

「なに、あんただれ?」

二島は父親が探していること、言づてを頼まれたこと、そのために自分が来たことを説明した。説明しながら父親のことを思い浮かべた。当事者間の事情や感情は二島には関係なかった。二島の仕事は娘を探し出し、生きているなら連絡をしろと伝言することだけだった。それを、そのまま伝えた。

「あんなちんけなとこ帰るつもりはないし、大体あんた関係ないじゃん」

そういう娘に二島はいった。

「慈善事業でやってるわけじゃない。仕事なんだ」

娘は唾を歩道に吐き出すと「コウシンジョか。腐ってんね」と、そういった。二島は息を吸い、吐いた。

「そうだ。腐ってる。君が生きていようと死んでいようと俺には関係ない。俺は気にしない。仕事だからやっているだけだ。君が父親とどんな関係にあるのかも知らないし気にしない。世の中はそんなもんだ。ただ誰かが自分を気にしてくれているってことは知っておいたほうがいい。君を気にしているから、そのために金を払うんだよ、その人は」

娘は二島に向けていた睨むような視線をはずした。通りにはまだ人通りはなかった。まだ、街にはいびつな欲望のかけらもみえなかった。電気の通じていない看板や照明は妙に色あせて見えた。故郷を思い出したのかもしれない。家族を思い出したのかもしれない。しかし何も言わず、目も合わさないまま彼女は二島のそばをすり抜けて雑居ビルの地下へ消えていった。

 父親にその後連絡があったのかどうかはわからなかった。父親は何もいわなかった。報告書と請求書を黙って受け取った。もしかしたら戻ってくるかもしれない。もしかしたらもうあの街にはいないかもしれない。二島には何もいえなかった。父親は何もいわなかった。大判の封筒をじっと見つめていた依頼者の、その目も何も語らなかった。

 

 同じカフェへ夫人は入っていった。二島もしばらく間をおいて店の中へ続いた。案内された席へ着くまでに店内を素早く見回すと夫人は奥の壁際に座っていた。二島はメニューを眺め、店員を呼ぶとサラダを注文した。オーダーの念を押され、それだけで、というと店員は踵を返していった。二島は手帳をだし思案気にボールペンをいじった。およそ半時間後に男がやってきた。男というよりは青年という容貌だった。見ようによっては少年といってもよかった。茶色がかった髪をした若者だった。実をいうと、もう資料に入っている顔だった。依頼人が経営する会社を三カ月前に辞めた青年だった。揃っている事実は社長の予想通りといったところだった。勘の当たった社長が、喜ぶのか憤慨するのか二島にはわからなかった。夫人の席に、するりと滑り込むように座るのを視界の端で確認した。十分ほど話し込むとふたりは店を出て行った。心なし冷たい態度でウエイトレスが水を継ぎ足していった。ふと、あの娘の腐っているという言葉をなぜか二島は思い出した。二島はあてもなくフォークでサラダを突いた。

 

LIVE at

 

荒川沖ジミヘン

 

2024/5/25 sat 

 "ジミヘンLIVE" 

 

act:

はちろうはぢめ

 

 start:20:00

投げ銭

 

 

荒川沖ジミヘン

 

2024/6/2 sun

"ユウジキクチ

HOPEFUL TOUR" 

 

act:

ユウジキクチ

ブレーメン

 

open:19:30start:20:00

charge:1オーダー+投げ銭  

 

水戸90EAST

 

2024/6/8 sat 

 "サウンドホールから!

コンニチワ!Vol,23" 

 

act:

中村

武蔵野カルテット

高橋賢一

for the one

劇画タイフーン

四畳半プリン

SCREW-THREAT

 

open:17:00start:17:30 

 Charge:¥2,500(1drink+満月ポン)込

 

荻窪クラブドクター

 

2024/6/13 thu

"club doctor 24th ANNIVERSARY" 

 

act:

SHOTGUN BLADE+10,000ケルビン

ザズエイラーズ

AZU

 

open:19:00start:19:30

charge:¥2,000(+1d)